構造的な課題
構造的な課題
登山道をめぐる制度の壁
従来の管理体制が機能しなくなってきている現在、官民学などの垣根を超えた協働体制の構築は急務といえます。
しかし、ここでもまた別の問題がたちはだかります。
それは、登山道管理をめぐる現行制度では現状に対応できない、ということです。
-
規制行政の弊害
日本の国立公園は、自然保護世論が弱い中で設立されたものである、ということをこちらのページで述べましたが、公的な人材や予算が不足する中で最低限の保全体制を維持するために、制度設計的に重視されてきたのが「行為規制」でした。
積極的な保全活動や、大人数を動員した監視などができない代わりに、
外部の関与を極力排除するための法律が様々に設けられたのです。
しかし、行為規制(開発規制)は強い一方で、利用(登山)規制は弱く、結果的に保護と利用のバランス(観光利用によってもたらされたダメージを適切に修繕する体制)が成立しませんでした。 -
登山道保全のための利用可能な制度がない
結果として、多くの自然公園で登山道などが荒廃してしまった今、過度な行為規制が足枷になってしまっています。
民間団体が環境保全活動に参画しようとしても、活動の許認可を受けるための、一般的に利用可能な制度が存在しないのです。
さらに、行政、民間問わず、どの組織にも自然環境のエキスパートが不足しており、また事業の質や目的を評価するための尺度や仕組みも確立していないため、ただ規制を緩めるだけでは事業の質が担保できないこと、財源があっても有益に使えないことなど、複合的な問題が顕在化しています。
雲ノ平トレイルクラブが
見出した解決策
それではこの硬直状態ともいうべき現状をどのように打開していけば良いでしょうか。
ここでは、改めて問題点を整理しつつ、今後雲ノ平トレイルクラブがとるアプローチをご紹介したいと思います。
大前提として、単独で国立公園の問題を解決できる主体はいない。
山小屋や民間団体、学術機関、行政の横の連携を強化し、実践的な協働型管理体制を確立することが求められています。
民間からのボトムアップ的な体制づくりのプラットフォームとしての、雲ノ平トレイルクラブの設立。
設立メンバーは山小屋、アウトドア企業、大学、環境コンサルなど。行政が許認可、資材提供などでバックアップし、現場の作業を雲ノ平トレイルクラブで行う体制を構築することで、山小屋(現場)の経験値を最大限活かす形で、各主体の不足要素を補い合い、相互研鑽、相互監視が機能する体制の構築を目指します。
しかし、現状では「自然公園法」が国立公園内の行為規制に偏った制度設計になっており民間団体が正式に参画するための利用可能な制度が整備されていません(規制行政の弊害)。この状態だと頻繁に作業以前の許認可の問題に躓くこととなり、事業を軌道に乗せることが困難です。
持続可能な協働型管理体制に移行するためには法制度の確立・再定義が不可欠です。
新制度「自然体験活動促進計画」の活用
現在利用できる可能性のある新制度として環境省の「自然体験活動促進計画」があります。
大目的はインバウンドをターゲットとした観光振興ですが「自然体験の上質化を促すために保全に割く各種リソースを強化する」という文脈において、「上質な自然体験を醸成するために、登山道整備をはじめとした環境保全活動にも活用できる」仕組みとして解釈ができるように制度設計がされています。背景には、ダイレクトに「環境保全」の目的では予算が取れない環境省の苦しい懐事情があります。
具体的には、まず行政、自治体と雲ノ平トレイルクラブで「自然体験活動促進協議会」を作ることで、登山道整備に関する中長期的な権限を雲ノ平トレイルクラブに与えるという構図が成立します。その上で、下記の図のように雲ノ平トレイルクラブが現場作業を主体的に取り組み、その知見を協議会で共有しつつ、行政、自治体も適切な現状理解に即して必要なアクションを取りやすい関係性を作っていきます。
協議会があることによって、技術の相互研鑽、リスク分散、財源の多元化、情報発信、制度の円滑な運用などの機能を強化させることができれば、雲ノ平での取り組みが今後の国立公園管理体制のロールモデルとなることも現実味を帯びてきます。(※但し、この協議会の初歩的な問題点として、基礎自治体の参加意志が協議会設立の前提条件となっているため、自治体が積極的に関与する意思がない場合、やはり民間団体だけでは何もできないということがある。)
2023年5月現在、北アルプス初の事例として雲ノ平トレイルクラブの
活動を中心とした自然体験活動促進協議会の発足が確定
このことで、常に許認可問題に苦しまされる状況は脱することができる見込みが高まりました。
しかし、もちろん正念場はこれからです。人、経済、技術や知見、感性、制度などがバランスよく整ってこそ、将来にわたって持続可能な仕組みや組織体制ができるわけですが、現状はまだスタートラインに立ったに過ぎません。
実働メンバーの育成、持続可能な運営を支える財源の確保、全国的な協力体制(メンバーシップ体制など)の確立、行政や自治体との信頼関係の確立など、協議会を世代を超えて受け継がれる確たるシステムとして育てるためには、長期間にわたり努力しなくてはならないことが山積しています。